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竜電関の印象はいかがでしたか?
坂田監督:竜電関はずっと明るくて笑顔が印象的でした。それと良い意味での普通、それが彼にとって揺らがないこと。どんな状況でも常にフラットでいることが強さだと考えているのだと思いました。
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本編を拝見して驚いたのが朝稽古の様子でした。恐怖すら感じるほどの激しいぶつかりあいの数々、そのシーンは絶対撮るという決意のもと撮影されたんでしょうか?
坂田監督:そうですね。撮影するときに大切にしたのは、自分がピュアでいないといけないと言うこと。もちろん取材をした上で撮影を始めたので知ってはいるのですが、取材の時に純粋にすごいと思ったことをちゃんと描かないと面白くならないなと思いました。いつも相撲を取材している方からみたら、朝稽古の様子ひとつをとっても当たり前の光景だと思うのですが、それは当たり前じゃないんだ、という風に撮りたかったんです。湯気はまるで力士のオーラのように見えるし、激しいぶつかり合いや申し合い稽古も新鮮だったので、そこはしっかり描きたいと考えていました。それがきっと“相撲の文化を撮る”ということに繋がるんだと思います。
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通常のドキュメンタリーというよりは、何かストーリーがあるように感じました。
坂田監督:それは撮りたいものをあらかじめ決めて撮っていることと、仮台本を作っていたからだと思います。カメラマンには、この日に撮るのはここを狙ってほしいと具体的かつ正確な指示を出していました。武隈親方(元大関豪栄道)の登場シーンも、四股を踏んでいる足がかっこいいなと思っていたので、そこを狙って欲しいとお願いしていました。まさにゴジラが登場するイメージに近いですね!土俵が出来上がっていくシーンは、こういうリズムで撮りたい、スローの演出をかけたいということを話しておいて、それを形にしています。また、お客さんが周りを囲み、力士たちが両国国技館に入っていく様子がランウェイのように見えたので、カメラもズーム多めにしてほしいと指示を出しました。
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相撲の歴史を語るシーンでは琴剣さんのアニメーションも入っていて、すごく面白かったのですが、それも元々描こうと思っていたのですか?
坂田監督:そうですね。歴史を普通に語ったら難しいじゃないですか。お相撲を見た人が満足できるラインと、お相撲を見たことがない人が入ってこれるラインがあると思うんです。そのギリギリのところを作ろうと思いました。お相撲の歴史を最短で分かりやすく伝えることが出来るのは、アニメーションだなと考えました。
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ナレーションの遠藤憲一さんは初めから決めていたのでしょうか?
坂田監督:最初はナレーションを入れるかどうかも決めていなかったんですが、構成上どうしても内容が伝わりづらい部分があったので入れることにしたんです。映画やドラマ、CMなど色々なところで遠藤さんの声を聞いてかっこいいなと思っていたので、ナレーションを入れるとしたら絶対に遠藤さんにお願いしたいと考えていました。
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撮影が終わったのが2019年の6月頃と言うことですが、編集はいつ頃から始められたのでしょうか?
坂田監督:撮影と並行して編集をしていました。髙田川部屋の撮影が始まる頃には境川部屋のパートは編集がほぼ終わっていました。そうすることで、後半で必要なシーンは何かと言うことが明確になりました。
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早いですね!そうすると完成は何月だったのですか?
坂田監督:2019年の7月か8月頃だったと思います。8月には日本相撲協会に映画を観ていただいたと思います。ナレーションやエンドロールも含め、完パケしたのは2020年の8月でした。
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制作過程でTVの経験があって良かったと思うことはどんなところでしょうか?
坂田監督:TVの人気番組を作っている人たちは視聴者がどう観るか、という目線で番組作りをするんです。だから自己満足な部分というのはないんです。自分の伝えたいことと視聴者が観たいものが必ずしもイコールにはならないと思っています。その感覚は他の映画監督とは違う感覚なのかなと思って作っています。
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ここだけは譲れないといったことや、ブレずに大切にしていたことはありますか?
坂田監督:やはり最初に決めたコンセプトですね。撮りたかった映像がNGになったりもしましたが、そこでTVで培った感覚が役に立ちました。出来ることと出来ないことがあるので、可能なことや状況に応じて対応していく瞬発力。困難もチャンスと思って臨みました。
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撮影中に大変だったことはありましたか?
坂田監督:力士の方の迷惑にならないように撮影するというのはやはり大変でした。あまりカメラを移動して撮影してしまうと、力士の方の気が散ってしまうので、基本的に固定カメラで撮影していました。動くタイミングとかも様子を見ていましたね。それと、僕たちが密着をすることで、心理的に負担をかけて本場所の結果に影響してしまったら…という怖さは感じていました。
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最後に、この時代に公開する意義はどんなことでしょうか?
坂田監督:本来であればこれまで生で感じることの出来た国技館の大歓声や興奮を、映画館の大きなスクリーンで体感してもらえることは、このタイミングでの公開にも大きな意義があると思っています。